サトラレル
「……ちょ、ちょっと待って。私達……婚約してるよね?このマンションだって……」
「うん。だから婚約は解消して欲しい。……って言っても指輪も何も渡してないし、お互いの両親に正式に挨拶もしてないし。今のところは口約束だけだったろ」
「いきなり出ていけってのは野々花もさすがに困るだろうから、一週間以内に住むとこ探して。俺は明日から居なくなるし、俺の分まで家事をしなくていいなら時間も空くだろ?ここは俺の名前で契約したから、俺はそのまま暮らすから」
すらすらと仕事か何かのスケジュールのように、私と別れた後の事を口にする康人に唖然とした。
そのまま康人は出張だと言って、本当に次の日から一週間帰って来なかった。
もう一度話し合いたい。私に何か悪い所があったのかもしれない。このまま終わりにしたくない。
そんな気持ちで一週間康人の帰りを待っていた私に、帰宅した康人は口を開くなり「……まだいたのかよ」と、眉を寄せて心底嫌そうな顔つきで言い放った。
もう話し合う余地も無いんだ。
もう私達は終わりなんだ……。
私は、ここでようやく康人との別れを実感した。
その日から物件を探したけれど、四月ということもあってなかなか見つからず、唯一事情を話した安住の好意で、彼女のマンションで暫くルームシェアをさせてもらう事になった。