サトラレル

「……あいつは、そのうち王子製菓(おうじせいか)の方に行ってどんどん出世していくんだろうな」

「あぁ。もう俺も(まどか)もいないし、同期会も解散だな」


永嶺くんと平井くんの刺を含んだ会話を聞いても、もう口を挟む気にもなれない。


私のせいで同期会を台無しにしてしまった事が申し訳なくて、気がついたらやっぱりうつむいて唇を噛みしめてしまっていた。


私も今日挙式に出るまでは、少なくとも永嶺くんや平井くんと同じ気持ちを持っていた。


言い方が古いけど、康人は出世に目がくらんで私を捨てたんだって。


結婚式をぶち壊すつもりは無いけど、恨み言の一つでも言ってやらないと気が済まないと思っていたほどの怒りは、二人を目の当たりにした瞬間に、スーッと跡形もなく消えてしまった。



いつもはふわりと下ろしている前髪を後ろに流すようにセットして、シルバーのタキシードに身を包み、堂々とした佇まいで新婦を待つ康人は凛々しくて、今まで私が見てきたどの彼よりも、今日の康人が一番素敵だった。


そして……悔しいけど、教会の扉が開いて王子製菓の専務だっていう父親と腕を組んでバージンロードを歩く新婦の姿は、一瞬悲しみやら憎しみやらを忘れてしまうほど美しく、思わず見惚れてしまっていた。


私が憧れ続けた純白のウェディングドレスに身を包んだ彼女は、私の横を通りすぎる瞬間に、確かに私を見て勝ち誇ったような笑みを見せた。


思わず見惚れてしまった事を後悔したけど、その微笑みさえも美しく、私は彼女に最初から何もかも負けていたのだと気がつき、激しく打ちのめされてしまった。
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