妻時々愛人
――これは、どういうことだ?

男は、この状況を理解できずにいた。

何故この女は俺に声をかけてきたんだ?40過ぎたこんなオヤジに。

何が目的だ?金か?それとも――俺の魅力?

そう考えて、男は思わず笑ってしまった。

魅力か――。俺にそんなものがあるとは思えないが。
――そうか!これはきっとご褒美だ。

20年間、文句も言わず働いてきた、俺へのご褒美だ。

「好きなもの頼むといいよ」

男の表情は、さっきまでの暗いものとは違っていた。

そうだ、俺は何故今までこんな人生に我慢していたんだ?

我慢なんて必要ない。女なんて星の数ほどいるじゃないか。

あいつと別れて新しい人生を始めればいい。

男はグラスの酒をグイっと飲み干した。

今日は長い夜になりそうだ。


妄想を膨らます男の横で、女は静かに酒を飲んでいた。

「君の名前は?」

「・・・」

「年は?若いよね」

「・・・」

男の問いに、女は微笑みを返すだけ。

「・・どうして俺に声をかけたの?」

女はジーッと男を見つめながら、口を開いた。

「――街で何度か見かけたことがあって、ずっと気になってたの」


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