妻時々愛人

思い

会社から出て来た宮野を見つけて、佳苗は持っていたコーヒーを置いた。

何やら急いでいるようだ。

道路をこちらへ渡ってくる。

あの人、私に気付いたのかしら?

佳苗は一瞬そう思ったが、すぐに違うと分かった。

宮野がタクシーに乗り込んだからだ。

佳苗は慌てて会計を済ませると、おつりも受け取らず店を飛び出した。

「お願い!」

突然乗り込んできた佳苗にそう言われ、タクシーの運転手は目を丸くした。

「今出ていったタクシー追って!」

「何?あんた探偵さん?」
「いいから!気付かれないようにお願い」

運転手はため息をついて、

「変な事に巻き込まないでくださいよー」

と、走り始めた。

・・・ねぇ、あなた。

一体どこに行くの?

家はこっちじゃないでしょ?


―――どのくらい走っただろうか。

宮野が乗るタクシーが止まった。

「手前の角を曲がって」

佳苗は宮野にバレないように少し離れた場所でタクシーを降りた。

< 20 / 114 >

この作品をシェア

pagetop