今宵は遣らずの雨

……どの口が云うか、と思ったが。

小太郎なりに、母親を一人残して行くのを案じているのだろう。

いつの間にか、母を案じられるほど、小太郎は成長していた。


「母上っ、行って参りますっ」

まだ前髪のある若衆髷に袴姿の小太郎が、満面の笑みで大きく手を振るところなどは、まだまだ子どもなのだが。


小太郎は、玄丞に連れられてうちを出て行った。

小夜里は、その後ろ姿を、ただ見守るしかなかった。

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