今宵は遣らずの雨

まるで、そんな小夜里の胸のうちが滲み出てきたかのように、昼間のうちから曇り空だったのが、いつの間にか雨がそぼ降り始めていた。

湯屋から帰ったあとでよかった、と小夜里は息をついて門の方を見上げた。

すると、着流しをまとった男の後ろ姿が見えた。

刀を大小、二本差している。

武家の男だった。

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