今宵は遣らずの雨

「……小夜里」

民部が名を呼んだ。低くてよく通る声だった。

小夜里はぴくり、として我に返った。

「お武家さま……ただ今、番傘を持って参るゆえ、お待ちくだされ」

そう云って、(きびす)を返して家の中に入る。

すると、門から民部が大股で裾を少し翻しながら、敷きつめられた玉砂利をざっざっ、と歩いてきた。

あっという間に小夜里のあとについて、中に入ってくる。

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