今宵は遣らずの雨
◇第七話◇
小夜里は民部から云われるがままに夕餉を用意した。おみつが小夜里のために支度したものだった。
「……おまえは喰わぬのか」
部屋の隅に置かれた行燈の、火皿の芯に火を点していた小夜里に、民部が尋ねた。
「そなたがお帰りになりましたら、いただきまするゆえ、お気遣いなく」
「おれは帰らぬぞ」
民部が即座に云った。
「おまえはこの雨の中に、おれを放り出すつもりか」
外を見れば、日はすっかり暮れて、しかも雨脚が強まっていた。
小夜里は慌てて、雨戸を閉めに行った。
……帰らぬ、とはどういうことであろう。