今宵は遣らずの雨
◇第八話◇
「……お止しくだされ」
小夜里は民部の切れ長の目を見て云った。
他国で待っているはずの妻子のことを思い出してほしかった。
「御酒も入っておらぬのに、飯盛女とお間違えか」
「飯盛女」とは、宿屋で春を売る仲居のことである。
民部はくっ、と笑った。
「『川向こう』だの『飯盛女』だの、おまえは学問だけじゃのうて、その方もよう知っておるな」
そして、民部は封じ込めた腕を緩めることなく、早速、小夜里の帯紐を解き始めた。
「民部さま……一時の気の迷いでござりまする……およしくだされ」
小夜里は顔を背けて、民部の腕の中でもがいた。