今宵は遣らずの雨
小夜里は今こそ、居たたまれなかった。
其処こそ、もうあの頃のような「娘」ではなかったからだ。
あの夜、民部を締めつけた「か細い道」ではないはずだ。
民部も気づいたのであろう。動きが止まった。
「おまえ……」
だが、なぜか蕩けるようなやさしい目になって微笑んだ。
「……大儀であった」
小夜里が問う間もなく、民部にまたあの獣の目の鋭さが戻ってきた。再び動き始める。
「吸いつくような……うねりがすごいな……」
民部の口から、思わず深くて重いため息が吐き出される。
そして、にやりと艶冶に微笑んだ。
「……小夜里、もう一度云う。覚悟いたせ」