今宵は遣らずの雨

「おまえは嫁入ってた時分には、亭主をなんと呼んでおったのか」

民部が仏頂面で訊く。

「……『旦那さま』にてござりまするが」

小夜里がそう答えると、

「では、これからは、おれのことをそのように呼べ」

民部が当然とばかりに云った。

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