今宵は遣らずの雨

そのあと、小夜里は家の前で、深くお辞儀をしつつ、

「ご無事で行ってらっしゃいませ……旦那さま」

と、民部を送り出す羽目になった。


息子の小太郎が家を空けたとたん、見かけぬ男が堂々と小夜里の家の表門から出ていくのを、

もし、近隣の者が見かけていたら、と思うと、

小夜里は顳顬(こめかみ)に青筋が立つどころか、胃の()がきゅっと縮こまり、持病でもない(しゃく)まで出そうだった。

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