今宵は遣らずの雨

それからというもの、民部は御役目のために毎日明け()つに家を出て、湯屋(ゆうや)帰りの暮れ六つに戻ってくるようになった。

御役目を持つ武士の、当たり前の日常である。


小太郎がいないのに、おみつに二人分を支度させるわけにはいかないので、食材だけを買いに行かせて、結局は小夜里自身が夕餉をつくることになった。

初めは、これではなんのためにおみつ(・・・)を下働きで雇ったのかと思うたが、昼()つあたりになると、手習所で子どもたちに書を書かせているにもかかわらず、自然と「亭主」のための献立を考えていた。


一人で喰うのはつまらぬと、民部は必ず小夜里と一緒に食した。

うちは裏長屋や百姓()ではござりませぬ、と小夜里が何度云っても、頑として聞かなかった。


寝所も、武家では夫婦は別の部屋に床を取るのに、隣に並べて入った。

御役目で疲れているだろうに、民部はまるで逢えなかったときを取り戻そうとするかのように、毎晩、小夜里を求めた。

再び相見(あいまみ)えたときのあの激しさは、夜毎の見合(まぐわ)いではさすがに鳴りを潜めたが、互いを気遣いながらも、深く濃く交わっていくのに変わりはなかった。

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