今宵は遣らずの雨
小夜里はできるだけ、いつものようにその日を過ごした。
そして、夕刻になり、いつものように民部が戻ってきた。
いつものように民部から渡された刀を、小夜里は捧げ持つように受け取った。
たぶん、これが最後の出迎えになるであろう。
小夜里は、支度していた夕餉を淡々といつものように供し、同じ部屋でいつものようにともに食した。
そのあと、箱膳を片付けに竈のある土間へ行って座敷に戻ってきた小夜里に、民部が自分の目の前に座るよう促した。
……いよいよ「引導」が渡されるのか。
小夜里は覚悟した。
武家に生を受けた女として、なにを云われても決して見苦しく取り乱さぬように、腹に力を入れた。