今宵は遣らずの雨

武家の男らしく、訥々(とつとつ)とした話ぶりに適度に相槌を打ちながら、小夜里はふと、手習所に通っている子の親からめずらしい地酒をもらっていたことを思い出した。

しかし、夕餉のあとに酒を出すのは順序が逆だとは思い、少し躊躇(ためら)った。

だが、ほとんど酒を嗜まぬ我が身には過ぎたものだと思い直し、やはり民部に出すことにした。

小夜里はその支度をするため(へっつい)のある土間へ行った。

水屋を開け、酒肴になるものを探していたら、これまた手習所に通う子の親からもらった、上方(かみがた)から下ったという蒸し焼き蒲鉾があったので、それを切って酒に添えた。

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