今宵は遣らずの雨

「宮内少輔」は通り名ではなく、公方(くぼう)(将軍)様から賜った官名である。

まさしく、大名家の一人である(あかし)だ。

また、「長賢」という本来は他人に絶対に知られてはならぬ(いみな)(実名)までも、小夜里に明かされた。


小夜里は実の父や兄の諱ですら、よく知らなかったので、度肝を抜かれた。

しかし、それは百も承知だったようで、

「おまえのために、諱まで名乗りを上げたぞ」

と声を上げて笑った。


「……だが、おれがおまえに話したいことは、ここからだ」

すぐに、引き締まった厳かな面立(おもだ)ちに戻った。

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