今宵は遣らずの雨
小夜里は、かばっ、と身を起こした。
「……奥方さまは如何がなされるか」
公方様から出された御触れ(武家諸法度)では、江戸に定府するのは「正室と跡取りの嫡子」である。それゆえ、側室は領国に住まわせた。
宮内少輔には、他郷で親戚筋の歴とした妻女がいるはずだった。
「『あれ』は、江戸へは行きとうないと云うておる」
……やはり、奥方がおられたのだ。
「奥方さまを差し置いて、わたくしなぞが行くわけには参りませぬ」
上下も弁えず、「側室」の立場の自分がのこのこと江戸へ参るのは、武家に生まれた女としての面目が立たなかった。
「……生まれた地で、死んだ前の亭主の菩提を娘と一緒に弔って行くゆえ、江戸へはついて行けぬと云われたのだ」