今宵は遣らずの雨
◇第十二話◇
「母上っ、ただ今戻り申したっ」
表で小太郎の勇ましい声がした。
小夜里は、ついにこの刻が参ったか、と胃の腑がきゅっと縮こまり、持病ではないのに癪が現れる寸前だ。
顳顬に立った青筋も、はちきれてしまうかもしれぬ。
座敷ではまだ、宮内少輔が布団の中で寝ていたのだ。
朝餉ができたので起こしに行ったら、揺さぶってもなにをしても、一向に目を覚まさなかった。
一旦ぐっすり眠ると梃子でも動かないのは、我が子の小太郎も同じであった。
……その小太郎がとうとう帰ってきたのだ。