今宵は遣らずの雨
突然、小夜里の気が緩んだ。
畳の上に座していたのだったが、ぱたりと突っ伏す。
「……小夜里」
すかさず、宮内少輔が駆け寄って、小夜里を抱き起こした。
入り口の土間にいた鍋二郎が飛んできて、
「母上っ、母上っ、如何がなされたっ」
泣きそうな顔で小夜里を覗き込む。
玄丞が小夜里の脈をとると、
「……心配無用でござる。どうやら、気が張っていたのがいきなり緩んだのと、寝不足がたたったようでござるな」
宮内少輔の腕の中の小夜里を見れば、すやすやと寝息を立てていた。
「あぁ、ここのところ、毎晩無理をさせておった。特に、昨晩は寝かせてやれなかったからな」
宮内少輔は玄丞を見て、にやりと笑った。
鍋二郎がおる手前、玄丞はなにも云わず、ただ宮内少輔をじろり、と睨んだ。