今宵は遣らずの雨

「……あのう、もうえぇじゃろうか」

今まで、外のお役人に足止めされていて、やっと許されたおみつ(・・・)が、おずおずと尋ねた。

裏口で訪いを入れてもだれもいなかったので、表の方まで回ってきたのだった。


「あぁ、おみつか。ちょうど良かった。
お師匠の気が悪うなって寝間に運ぶところでござった。手桶に水を張って持ってきてほしい」

玄丞がおみつに用事を云いつけた。

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