今宵は遣らずの雨
江戸に着いた小夜里に懐妊の兆しが見られた。
あの駕籠の揺れの中で、よく流れなかったものだと、小夜里は肝を冷やした。
無事に公方様との謁見を終え、安芸広島新田藩の初代藩主となった宮内少輔は「二重の福が来た」と手放しの喜びようだ。
「次はおなごがよいな」と、誠に勝手なことを云う。
しかし、まったくその通りとなった。
既に道ができていたためか、案じられた初産のときのような死と隣り合わせのお産ではなく、次の子はこの世に出てきた。
生まれたおなごは、碧姫と名付けられた。