今宵は遣らずの雨

江戸に着いた小夜里に懐妊の兆しが見られた。

あの駕籠(かご)の揺れの中で、よく流れなかったものだと、小夜里は肝を冷やした。

無事に公方(くぼう)様との謁見を終え、安芸広島新田(しんでん)藩の初代藩主となった宮内少輔は「二重の福が来た」と手放しの喜びようだ。

「次はおなごがよいな」と、誠に勝手なことを云う。


しかし、まったくその通りとなった。

既に道ができていたためか、案じられた初産のときのような死と隣り合わせのお産ではなく、次の子はこの世に出てきた。

生まれたおなごは、碧姫(たまひめ)と名付けられた。

< 175 / 297 >

この作品をシェア

pagetop