今宵は遣らずの雨

それから、数年後。

碧姫は、みなから「たま」「たまさま」と呼ばれるようになり、「わらわは猫ではあらぬ」と頬を膨らませて怒っていた。

母の小夜里の(かた)の美貌をそのまま受け継いだ碧姫に、父の宮内少輔はまさに目の中に入れても痛くないほどの可愛がりようだった。


鍋二郎は元服して、浅野 兵部少輔(ひょうぶしょうゆう) 長喬(ながたか)となった。

対外的には「兵部少輔様」と呼ばれたが、相変わらず父からは「鍋二郎」と呼ばれ、母からは「小太郎」と呼ばれていた。






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「今宵は遣らずの雨」
第二部 「運命(さだめ)の子」〈 完 〉
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