今宵は遣らずの雨
第三部「 運命(さだめ)の愛」
流行り病で急逝した父親の竹内 玄丞は、安芸広島新田藩の御殿医であった。
とはいえ、一人娘であった初音に遺したものはほとんどない。
母親の千都世は、初音が十五のときに既に他界している。
身寄りのない江戸の町で、婚期を逃し二十七になった初音は、これから一人で身を立てていかねばならないのだ。
そんな折、父のたった一人の弟子であった稲田 湧玄が初音を訪ねてくる。
蘭方を学ぶため長崎へ行くという彼は、初音に「一緒についてきてほしい」と乞う。
しかし、初音には幼き頃より恋い慕う、身分違いのお方がいた……