今宵は遣らずの雨
初音とおふくが表の方を見ると、男が一人立っていた。
「まぁまぁ、湧玄さん。
……こりゃあ、お邪魔さまだね。あたしゃ失礼するよ」
おふくは含み笑いをして、家を出て行った。
初音は気づかれないように、一つため息を吐いた。
「……お嬢さん、ちょいと話を聞いてもらいたいんだが」
初音は、上がり框にある三畳ほどの畳の間に湧玄を促した。
元は店をしていた仕舞家には、入り口にちょっとした応接のための間がある。
ほんの一瞬、奥の座敷に通すべきかと思案したがやめておいた。
湧玄は雪駄を脱がず、上がり框に腰をかけた。