今宵は遣らずの雨

◇第三話◇


戸締りしようと思っていた裏口から、黒い影が入ってきた。

……鍋二郎さまがお越しなされた。

父親が亡くなって以来、逢うのは初めてだった。

思わず、初音の顔が花が開いたようにほころぶ。

「な……」

と云いかけたところで、ぴたりと止めた。


兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)ではなく、

……湧玄だった。

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