今宵は遣らずの雨

「……手荒なことはしとうなかったが」

そう吐くようにつぶやいたあと、湧玄は初音の肩を掴んで、思い切り引き寄せた。

いきなりのことに、初音の身体(からだ)がぐらりと傾く。

すると湧玄は、初音のか細い身体を小上がりに押し倒した。

その拍子に、初音の着物の(すそ)がめくれあがる。

湧玄は初音の両腕を押し広げ、畳に押さえつけた。

腹の底からせり上がってくる恐怖で、初音は全く声が出なかった。

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