今宵は遣らずの雨

「先生の弟子になった頃から、ずっと好いておった」

湧玄は、苦しそうに、切なげに、云う。

「おれが百姓の出なのが気に入らなければ、伝手(つて)を頼ってお武家の養子にしてもらうし、なんなら士株を買うてもいい」

町家や百姓から武家になる方策であるが、どちらにしてもかなりの金子(きんす)が入り用だ。

豪農の親から出してもらう算段なのであろう。


初音はかぶりを振り続けた。

怖くて怖くて、どうしても、声が出なかった。

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