今宵は遣らずの雨

初音の首筋に湧玄の息がかかったかと思うと、ぶにょっとしたものが触れた。湧玄の唇だった。

その刹那、気味の悪さで、初音の身体(からだ)じゅうが逆毛立った。

なんとしても逃れたいと思って押しのけようとするが、湧玄に両腕を押さえつけられているのでどうすることもできぬ。

かろうじて脚をばたつかせてみた。

すると、膝が湧玄の腹に入ったのか、顔を歪ませた。

しかし、初音の脚の間に湧玄の身体が滑り込んできて、あっけなく制される。


そうこうしてる間に、しゅるるっと音がして、帯紐(おびひも)を解かれてしまった。

帯が崩れて、その下の紐も外される。

着物が剥がされ、初音の柔肌が……二つの真っ白な乳房が露わになる。

未だかつて、兵部少輔しか知らない、兵部少輔にしか許したことのない身体だ。


「……初音……きれいだ……」

湧玄が掠れた声でつぶやく。


初音は込み上げてくる涙に(こら)えきれず、ぎゅっと目を(つむ)った。

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