今宵は遣らずの雨

初音の上に乗った湧玄が振り返ると、がらりと開いた戸口に男が立っていた。

外は本降りなのか、ざぁざぁと雨音が響いている。

着流し姿の武家の者が、鬼のような形相をして、左腰に差した大小の刀の本差の方の(つか)を取って構えている。


「……鍋二郎さま……」

初音が(かす)かに呟いた。声にはなっていなかった。

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