今宵は遣らずの雨

「もう一度、訊く」

兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)は左の親指で、本差の(つば)をかちり、と鳴らして浮かせた。

「おまえ……初音に何をしておる」


湧玄は初音の上から、ばっ、と飛ぶように降りた。

初音はすばやく湧玄から離れ、乱れた着物の前をかき合わせ、両腕でおのれ自身を抱きしめた。

髪はぐずくずに乱れて、歯の根も合わぬほど、がたがたと震えていた。

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