今宵は遣らずの雨
◇第四話◇
小夜里の話は続いた。
町で名の通った酒屋の娘のおりんが教えを乞いに来て以来、町家の女の子たちがぽつぽつとやってくるようになった。
兄に頼らずとも、自分の喰い扶持くらいはなんとかなりそうだった。
やがては父のような藩の重責を担う身を目指す兄は、世間体を慮って町家で手習所を続ける妹には良い顔をしない。
今でも時折、嫂を介して、子持ちのやもめだの、家督を子に譲った隠居だのとの縁談を持ち込んでくる。
生まれながらの「武家の女」そのものの気性の母も、娘が再び嫁ぐことを強く望んでいた。
だから、自然と、実家へは立ち寄らなくなった。