今宵は遣らずの雨
◇第五話◇
その時、戸口に何名かの武家が、血相を変えてやってきた。
「……御前様っ、こちらでござったかっ」
安芸広島新田藩からの者だった。
「お出かけになる折には供の者をつけてくだされ。御身になにかござりますらば、われらの腹はいくつあっても足りませぬ」
兵部少輔はふっ、と苦笑した。
「この者をもう少しいたぶらねば、この雨のように気も晴れぬのだかな」
先刻ほどではないとはいえ、雨はまだしとどに降っていた。
「命拾い、したな」