今宵は遣らずの雨

◇第五話◇


その時、戸口に何名かの武家が、血相を変えてやってきた。

「……御前様っ、こちらでござったかっ」

安芸広島新田(しんでん)藩からの者だった。

「お出かけになる折には供の者をつけてくだされ。御身になにかござりますらば、われらの腹はいくつあっても足りませぬ」

兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)はふっ、と苦笑した。

「この者をもう少しいたぶらねば、この雨のように気も晴れぬのだかな」

先刻(さっき)ほどではないとはいえ、雨はまだしとどに降っていた。

「命拾い、したな」

< 221 / 297 >

この作品をシェア

pagetop