今宵は遣らずの雨
「……初音、最後までは許さずにいたな。大儀であった」
兵部少輔は、ほっとした穏やかな笑みを浮かべていた。
初音の潤んでいた瞳から、涙が一筋溢れ出て、つーっと頬を伝っていく。
兵部少輔の背にまわした腕を引き寄せ、ぎゅっとしがみつく。
兵部少輔もそんな初音を見ていると、愛しさがなおいっそう湧き上がってきて、思い切り抱きしめてやる。
いつもよりもやさしく、まるで宝物を扱うように、兵部少輔は初音を抱いた。
悪夢のような湧玄とのことはなかったと思わせてやりたかった。
自ずからの手によって、すっかり塗り替えてやろうと思った。