今宵は遣らずの雨

……とうとう御前様が側室をもうけござった。

当然のことながら、正室である芳栄(よしえ)(かた)の心持ちが良いわけがない。

案の定、側仕(そばづか)えする者たちに、(ところ)構わず当たり散らしていた。


御公儀により、諸藩の藩主は一年ごとに江戸と領国との間を行き来するよう定められている。

だが、安芸広島新田(しんでん)藩は、本家である安芸広島藩の蔵米を分け与えられて立藩した支藩で領国を持たないため、藩主は江戸に定府することになっていた。

よって、本来ならば江戸に正室と跡取りの嫡子を置き、領国に側室とその他の子らを置くところが、どちらも江戸に住まわせることになる。


芳栄の方の怒りの矛先は、実の娘である寿姫(としひめ)にも向けられた。

「……そなたがおなごで生まれたゆえ、わらわはこのような憂き目に遭うのじゃっ」

何の(とが)もない、まだ五つの寿姫に、始終金切り声で怒鳴っていた。

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