今宵は遣らずの雨
一方、側室となった初音は、籠の鳥になってしまった。
わかってはいたことだが、武家の両親を持ちながらも町家で気ままに生まれ育った身には、どこにも行けず、一日中御屋敷の離れで過ごすことは思った以上にこたえた。
しかも、それが死ぬまで続くのである。
確かに、愛しい兵部少輔の側にいられることはこの上ない喜びである。
だが、限られた側仕えの者としか話せない、しかもその者たちが粗相をせぬようにと、自分の一挙手一投足に神経を尖らせながら接するのが、気詰まりでならなかった。
ある時、初音は母屋と離れの間にある庭先で、幼い女の子がしゃがんでいるのを見つけた。
……兵部少輔の一人娘の、寿姫だった。