今宵は遣らずの雨
◇第八話◇
初音の方が御懐妊された。
兵部少輔が手放しの喜びようなのは、云うまでもない。
二親に死に別れ、身寄りのない初音を案じて、自ずから命じて細々したものを取り揃えさせていた。
武家では、夫婦は寝間を別にする。
妻は夫に呼ばれた夜のみ、同衾する。
そして、朝になる前に自身の寝所に戻る。
なのに。
兵部少輔は夜になっても、初音がいる離れから自身の寝所に戻ろうとしなかった。
挙げ句の果てには、初音の寝所で同床した。
藩主の御屋敷に仕える者たちに示しがつかぬと、初音が幾度窘めても、自らの父母がさようであったから、と兵部少輔は聞き入れてくれなかった。