今宵は遣らずの雨
おもしろくないのは、正室の芳栄の方である。
ついに、恐るべきことが起こったのだ。
……もし、生まれた子が男であれば。
芳栄の方は身震いして、おのれ自身を抱きしめた。
……返す返すも口惜しいのは。
芳栄の方は、おなごとして生まれた我が子、寿姫を鋭い目で見た。
寿姫は咄嗟に、母親から目を逸らして俯いた。
奥歯をぎりぎりと噛み締める、芳栄の方の横顔は、夜叉そのものであった。
……新たな子なぞ、なんとしても阻止せねば。
側仕えの者たちは、人というのはだれかを恨むとこれほどまでに「鬼の形相」になれるものなのか、と恐れ慄いた。