今宵は遣らずの雨

だが、一太がやって来た初日にして、小夜里はその「狼藉」が何であるのか思い知った。

筆先にたっぷりと墨を含ませた一太は、紙の上でその筆を縦横無尽に走らせた。

小夜里の書いた手本など、見向きもしなかった。

紙が如何(いか)ほどの大きさであるかにも、構わなかった。

当然、辺り一面に墨が飛び散った。

周りの女の子たちが悲鳴をあげる。

だが、小夜里は「お()しなされ」とは一度も云わなかった。

< 25 / 297 >

この作品をシェア

pagetop