今宵は遣らずの雨

「……寿姫どの、本日もようおいでなされた」

初音の方はいつもと変わりなく、ふっくらと微笑んでくれた。

寿姫の、(そう)の糸のごとく張り詰めた心が。

ふっ、と和らいだ。


側仕えの者がお茶と甘味を持ってきてくれる。

思わず、寿姫の頬が緩んだ。

だが、今日はすぐにその頬を引き締める。


……心が、決まった。

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