今宵は遣らずの雨

「ちゃんとお約束どおり、姉様人形の着替えの着物を仕立ててござりまする」

そう云って、初音の方が手文庫を置いた文机(ふづくえ)がある後ろへ振り向いた。

側仕(そばづか)えの者たちもそれぞれの御役目をしている。

寿姫に気を留める者は、だれもいなかった。


……今だ。

寿姫は(たもと)から薬包を取り出し、和紙の包みを解き、すばやく湯呑み茶碗へ注ぎ入れた。

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