今宵は遣らずの雨

横目で、初音の方が湯呑みの茶を飲むのを見届けてから、寿姫はおもむろに、目の前のもう一つの湯呑み茶碗に手を伸ばした。

そして、湯呑みを手に取ろうとしたその刹那。

「あ、いけませぬ……まだ御毒味が済んでおりませぬゆえ」

そう云って、初音の方が先に、寿姫の湯呑みを手に取った。

そのまま、口につけようとする。

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