今宵は遣らずの雨

寿姫が、咄嗟(とっさ)にその身を伸ばした。

初音の方の手を、ぱしり、と(はた)く。


湯呑み茶碗が、ことり、と落ちて、

ころころころ、と畳の上に転がる。

こぼれた茶が、畳に地図を作っていく。


「……寿姫どの……」

初音の方が(ほう)けた顔になる。

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