今宵は遣らずの雨

だが、次の刹那、初音は我に返った。

医師の娘の勘が騒いだ。


……まさか。


初音は片外しに結い上げられた髪から一本、(こうがい)を引き抜いた。

そして、畳の上に転がった湯呑み茶碗には触らず、ただかろうじて底に残っている茶に、笄の先を浸した。

すると、瞬く間にその先が黒く変わった。

その笄は銀細工だった。


……銀が黒くなるということは「石見銀山」か。


(ねずみ)捕りに使う鉱毒(砒素(ひそ))で、身の内に入ればひとたまりもない。

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