今宵は遣らずの雨

側仕(そばづか)えの者が水の入った手桶を二つ持ってきた。

側仕えが、わたくしが、と申し出たが、(おの)ずから寿姫の手を念入りに洗ってやる。

手についたかもしれぬ毒を、しっかりと落とさねばならない。


寿姫は大人しく見えるが、まだ五つである。

自分で思い立ってこのようなことができるはずがない。


……ということは、

実の母から云われて。


初音の背筋が、すーっと凍る。

自分のことを憎いと思うのは、先刻承知だが、

まさか、自分の実の娘を刺客にするとは……

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