今宵は遣らずの雨

初音の父親も母親も、自分のことをせいいっぱい愛しんでくれた。

病がちで自分の子の世話もろくにできなかった母であったが、それでも自分を慈しんでくれるその愛情を疑ったことは一度たりともない。

近所に住む町家の人たちも、まるで自分の娘のようにかわいがってくれた。


……なのに、この子は。


初音は、泣きじゃくるのが止まない寿姫の、その背中を何度も何度もやさしく撫でてやった。

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