今宵は遣らずの雨

◇第十話◇

回廊から忙(せわ)しない喧騒が押し寄せてきた。

襖(ふすま)が勢いよく、ぱーん、と開く。


「……初音っ、大事には至らぬかっ」


険しい面持ちの兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)が、座敷に大股で入ってくる。

初音に身を寄せていた寿姫の身が、ぎゅっと縮こまった。

ぽんぽん、とその背を叩いて「お任せくだされ」と初音は寿姫に囁いた。