今宵は遣らずの雨

「だれの湯呑みに入れたかは存ぜぬ。
我が屋敷で、御公儀に反するようなことが起きたのが大事(おおごと)なのだ」

兵部少輔は腕を組んで、眉間に(しわ)を寄せた。


「御前様、寿姫どのをどうなさるおつもりか」

初音はそう云いながら、寿姫を引き寄せた。

寿姫もさらにぎゅっとしがみつく。


……おれの知らぬ間に、いつからさような仲になったのだ。


兵部少輔は思わず、ため息を吐いた。

< 263 / 297 >

この作品をシェア

pagetop