今宵は遣らずの雨
此度の件に関しては、被害を被りかけた初音が必死でとりなした。
また、芳栄の方の実家筋からは、兵部少輔と離縁させて引き取るという申し出があった。
結局、兵部少輔は不問に処することにした。
もし、処罰するにしても、御公儀(江戸幕府)に諮る必要があり、痛くもない腹を探られ面倒なことになりかねない。
連中はいつ何時も「御家取り潰し」の機会を狙っているからだ。
実家筋はもちろん、娘である寿姫も引き取ると云ってきた。
実家に戻った芳栄の方は「身内の恥」と蔑まれ、おそらく座敷牢のような部屋に幽閉されるであろう。
寿姫は、もしかしたら、さような母親の傍らで一生を送らねばならぬかもしれない。
初音は居ても立ってもいられなかった。
気がつけば、その部屋の前に立っていた。
……芳栄の方が伏している部屋である。