今宵は遣らずの雨

御屋敷の中でも、この流行(はや)り病に罹る者がちらほらと出てきた。

もちろん、直ちに初音の方の部屋に近づくことが禁じられる。

もし御懐妊なされた初音の方に移って、腹の子に(さわ)りが出ようものなら御家(おいえ)の一大事ゆえ、御屋敷内の気配はぴーんと張りつめていた。


にもかかわらず、とうとう、あんなに気をつけていたはずなのに、日中は一番初音の方の身近にいる寿姫が罹ってしまった。

継母上(ははうえ)……申し訳ありませぬ……」

戸板に乗せられた寿姫は、熱で荒い息をしながら、養生するための部屋に運ばれて行った。

< 277 / 297 >

この作品をシェア

pagetop