今宵は遣らずの雨

寿姫は、それから三日三晩、熱にうなされた。

一時は、目を閉じた(まぶた)の向こうに、極楽浄土の前に横たう三途の川が見えていた。

しかし、五日目にはすっかり熱も下がった。

なのに、兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)から寿姫が元のように初音の方の部屋に入ってもよいと申し渡されたのは、翌月の師走(十二月)に入ってからだった。


別に、兵部少輔が寿姫を快く思わないからではない。

むしろ、日中は自分が傍らにいられない代わりに、初音が心を開く寿姫に一緒にいてもらいたかった。


初音のおかげで、わだかまりのあった兵部少輔と寿姫が少しずつではあるが、何気ない話をするようになった。

兵部少輔は寿姫のために許婚(いいなずけ)も探していた。

もちろん、実際に輿(こし)入れするのはまだまだ先だが、実の母方の後ろ盾がない寿姫の将来が不安定なものであるからだ。

< 278 / 297 >

この作品をシェア

pagetop